旅の準備をしよう。(1/2)
著:源 純夏
シドニーオリンピック競泳銅メダリスト
ライフセーバー
NSPライダー
ファンライド徳島チーフインストラクター
https://www.instagram.com/sumika_minamoto
http://funride-tokushima.com/
旅の行き先、目的を決めて、スケジュールを立てたらまず荷造りから楽しんでしまうタイプ。そのせいか荷物が多くなりやすい。そんな時思い出すのは小さい頃から母から教えられた呪文の言葉。「大は小を兼ねる」。
楽しい荷造りだが、楽しいだけではない。忘れ物をしないように慎重にしなくてはならない。私が中学生か高校生だった頃、海外遠征のため徳島からフライト前日に成田のホテルに移動して、そこでパスポートを家に忘れたことに気がつき肝を冷やすどころではない経験をしたことがある。(なお、翌日の出国に間に合うようにパスポートは届いたのでご心配なく。)失敗は大人になってからもある。オリンピックのメダルを子どもたちに見せてあげる予定だったのに持っていくのを忘れてしまった。これは本当に申し訳ない苦い思い出のひとつである。
海仕事の場合も現地調達不可なことが多いので忘れ物は厳禁だ。だからライフセービング活動での旅は特に気をつけている。
毎年8月最後の週末に行く場所があった。愛媛県中島。トライアスロン大会のガードという役目だ。ライフセーバーはスイムパートにおいて選手が安心して全力を尽くせるように見守り、トラブルには迅速に対応し、全員を無事に海(湖やプールの場合もある)から送り出すのが役目だ。その業務にあたるための準備はユニフォームやなんだかんだと大荷物になるのだが、厄介なことは帰りはほぼ全てが水に濡れている。そんな私たちにとって防水バッグは必需品だ。
愛媛県中島という場所はその名の通り島である。フェリーで片道1時間ほどだがフェリーという交通手段は旅を強く感じさせる。年に1度、島を挙げてのお祭りのように開催されるトライアスロン大会のために大勢のトライアスリートたちとひとときの船上の旅時間を楽しむ。
ライフセーバーが現地に到着したらまずすることは現場の状況をよく観察すること。海の状態、地形、陸上の動線。周囲の状況を確認できたら海に入ってまた観察。海の中も海から見た陸上の様子まで。海に囲まれた日本だが、海とひと口に言っても同じ場所は二つとない。ということはトラブルや事故の原因になるであろう因子も場所によって違う。私たちライフセーバーの活動は事故を未然に防ぐことにあるので現場チェックはとても大切な準備のひとつだ。その大切な現場チェックのやり方もいろいろある。選手のように泳ぐこともあれば、SUPやサーフィンを楽しみながらすることもあるし、水上バイクを走らせながらすることもある。どんな場所でも海で楽しむことを忘れないのもライフセーバーだ。
さて、業務にあたるための準備はまだまだあるのだが、旅の楽しみも忘れてはいけない。この中島大会のホスピタリティを存分に味わえるイベントが前夜祭である。地域の学校の体育館の全面にシートを敷き、ひっくり返したみかん用のコンテナの上にベニヤ板を乗せた最高の手作りテーブルでいただくのは地元の婦人会の皆さんが中心となりたくさんの山の幸海の幸とうどんとカレー。地元の子どもたちが披露してくれる水軍太鼓に感動をもらい、メインイベントで盛り上がるのはコーラの早飲み競争。参加したい人はステージへどうぞ形式だが毎回溢れんばかりに我こそが早飲みチャンピオンになるという猛者たちが続々とステージに駆け上がる。トライアスリートのチャレンジ精神には感服だ。
いつまでも騒いでいたい前夜祭だが、全員が翌日の過酷なレースに出場または運営する人たちなので終わりの時間はきっちり守られる。そんな中でもライフセーバーは腹と心を満たして誰より早く会場を後にする。翌日に向けての最終準備をするためであり、しっかり睡眠時間を確保して万全の体調で望むためだ。もとより私は旅において睡眠は重要だと考えている。睡眠こそ楽しい旅の必需品。もちろん夜の時間を楽しむこともあるが、車旅が好きな私としては交通安全のためにも睡眠時間の確保は欠かせないのである。