《サップチャレンジ 三浦半島一周》 俳優 石丸謙二郎

三浦半島の津久井浜から、半島を時計回りにグルリを回って、鎌倉まで行ってみよう!
思い立ったら、すぐに、ウインドサーファーであり、山仲間でもある、同い年の滝田くん(62才)に連絡をとった。
「風次第だな」
ウインドグルを調べ、風の未来予想を立てる。どうやら、11月16日が最適だと判断した。

当日、6時45分。
快晴。
北東の風、4m。
インフレタブル(エアー使用)のサップボードを海に浮かべ、
登ったばかりの朝陽に向かって漕ぎ出した。
背中には、ストリームトレイルの30ℓ防水バッグ。
水2,5ℓに食料、救難具などが入っている。

8時の方向からの追い風を受け、時速8キロほどで、快調にとばす。
12キロも漕いだところで、観音崎を回り込む。
そこで、風がシフトする。
予定通り、東風に変わった。又もや追い風だ。
ウインドサーファーは風読みが深い。
その追い風に乗り、城ヶ島までの10キロを1時間で漕ぎぬける。
出発から、2時間45分(無風では4時間半)は、相当速い。

ところが、風が有るという事は、波が立つとい同義語だ。
波がささくれたち、ボードの上に立って漕ぐ事ができない。
そこで、ヒザ立ちや、正座をして漕ごうとするのだが、
ヒザへの負担が大きい。
このまま、数時間もつハズがない。
そこで、城ヶ島でいったん上陸し、ハッポースチロールを手にいれる。
そいつをナイフで裁断し、バッグの中に詰め込むのである。
即席の、バッグ座椅子を拵えらえた。
股で、縦に挟めば、高い椅子となり、横に倒せば、座布団になる。
正座したり、足を投げ出したりと、色んな体勢に対応できる。

さあ、再度出発!
しかし、なぜか、ここで、風が北西にシフトしたのである。
10時半の方向、つまり、向かい風が吹いている。
風速2~3m。
おまけに、潮が下げ潮に変わり、進行方向から流れてくる。
逆流だ。漕いでも漕いでも、ボードは進まない。
疲れたからと言って、休むと、進んだ分押し返される。
休憩もできない。
ただただ漕ぎ続けるしかない。

二人は、沖合い2~3キロの海岸から離れた場所を進んでいる。
すると、面白い現象が起きる。
佐島マリーナが右横に見えるようになった。
その後、20分ほど、懸命に漕いだ。
ところが、まだ佐島マリーナが横に見える。
さらに、20分ほど漕ぎまくった。
なのに、まだ、佐島マリーナが横に見えているのだ。
コレは、子供の頃、お月様がいつまでもついてくる現象に似ている。
対象が遠くにあるので、さほど角度が変わらないセイだ。
しかし、漕ぎまくっている我らとしては、悲しい。

気付くと、太陽が、かなり傾いている。
遠くに聳えている富士山が赤く染まり始めている。
このままでは、鎌倉まで行けないかもしれない。
向かい風がうらめしい。
「よお~し、滝田く~ん、最後の力を振り絞って漕ぐゾ!」
遠くに、海の中まで崖が張り出しているのが見える。
アレは、葉山の長者が崎だ。
よおし、なんとかあそこまで、行こうではないか。

出発してから、パドルをどれほど海面に突き刺したであろう。
数千匹のイワシの稚魚が、我らのボードに驚き、
銀色に光りながら、海面から飛び出していった。
彼らは何百万年かたったら、空を飛べるようになるだろうか?

午後3時30分。長者が崎到着。
タイム8時間45分。
距離、50キロ。
日没サスペンデッドであった。

30ℓバッグ

出発_R

長者が崎到着_R