知床半島 流氷単独SUP遠征 2021
著:佐々木 規雄
絶景ハンター
知床半島とは世界遺産でありオホーツク海に突出した長さ70㎞、幅25㎞の半島。
ヒグマの育生密度は世界的に見ても高く手付かずの自然が残る日本の数少ない秘境の一つだと私は思っている。
そして半島には周回する道がない為に船か険しい海岸線を歩いて行くしか先端にある知床岬に行く手段がない。
そんな場所をSUPで行けないか?と数年前から考えていた。
シーカヤックで行った者は何人も居るがSUPで行った者はおそらく過去に誰も居ない。
私はSUPに食料、水、キャンプ道具などを積んで何度も海や川を旅してきた経験があった。
そして2021年、ついに知床に行くことに決めた。
しかも時期はまだ寒く雪のある3月初頭。
オホーツク海にはロシアのアムール川でできた流氷が北風に乗ってオホーツク海に漂着する。
その時期を選んだ理由は夏の知床よりも単純に面白そうと言うことと私の次の目標がグリーンランドの北極海をSUPで旅すると言うことだったので訓練にはうってつけだと思ったからである。
知床は海がすぐそばなので北海道の内陸部に比べて暖かい。
しかし流氷がびっしり接岸すると海の表面が氷に覆われ陸と同じ状態になる。
そうなると内陸性の気候になり寒い冬の時期は-20℃以下になると言う。
3月はさすがにそこまで寒くならないが太陽が沈んだ夕方は-10℃近くにはなり濡れたSUPの表面はたちまち凍結してツルツルと滑る。
この時期の海水温は調べると-1.0℃~0℃。真水は0℃で凍るが海水は塩水なので-2℃でないと凍らない。
フルドライスーツを着て脚はさらにネオプレーンソックスを履いて落水に備えた。
流氷の動きは遅いように見えて沖にある流氷は潮の流れでかなり速く何度も驚かされた。
SUPを漕いでいて目の前の開けた水路がたちまち流氷に閉ざされ漕げなくなったり挟まれたりすることもあった。
そんな時、シーカヤックなら身動きが取れなくなるがSUPならフィンを外して橇のように流氷の上を引きずり歩くことができる。
私は知床半島SUP遠征に出発する日までに何度もトレーニングして装備の確認や流氷の動きなどを観察した。
荷物は全てStream Trail社の防水バッグに入れ特に大事なカメラなどの電化製品は防水バッグに二重に入れて対策した。
Stream Trailの防水バッグは数年前にー40℃以下の北極圏をリヤカーで歩いた時にも使用し寒い中でも問題なく使用できることは確認済みであった。
今回の知床SUP遠征で私が選んだbagは背中に背負って移動できかつ60リットルの容量もあるDRY TANK60リットル。
口が大きく開き物の出し入れがしやすく容量もあり、かつ背中にも背負うこともできるDORADO 55リットル。
カメラやスマホなど貴重品、頻繁に出し入れする行動食などは軽くて持ち運びしやすいBREATHABLE TUBE のサイズ違いを2重にして入れていた。
遠征をスタートして初日、山と山の谷間で突然の強風と波でボートが沈(反転)して流され私は極寒の海に投げ出された。
パドルも流されそんなパドルを泳いで捕まえボードをリカバリーして必死に強い向かい風の中を陸に向かって漕いだ。命の危険を感じた。
荷物はボードにゴムバンドで固定していたが反転したことで海水に完全に荷物が浸かってしまっていた。
荒れる海でリカバリーできるまでに3分以上は浸かっていた。
後で確認できたがバッグの口をしっかりロールして閉めていたのでほぼ濡れることなく装備を守ってくれた。
少し口の隙間から染み込んでいたが装備に影響がなかったのは幸いだった。
完全防水のバッグではないので本当は防水バッグの中で絶対濡らしたくない衣服、寝袋などはゴミ袋に入れて二重の対策するべきだったが忘れていたのだ。
その後も流氷に囲まれ水路を阻まれ何度も氷の上を歩いてゴールを目指したが荷物の重さやバランスが悪くボードが反転して海水に浸かった。
知床半島は携帯の電波も届かず衛星携帯電話でなければ救助要請もできない場所。
私は衛星携帯電話を装備していなかったので何かトラブルがあっても自力でなんとかするしかない状態だった。
様々なリスクを想定して準備はして来たが知床の町ウトロの交番には遠征計画書と緊急時の連絡先など全て提出していた。
最長で11日間分の食料と調理用の燃料を準備していた。
結果、私は3泊4日で約80㎞の流氷がひしめく海を単独で知床半島を羅臼側の相泊からウトロまで漕ぎきることができた。
フィンが流氷と接触して外れ海中に沈みいきなりコントロールを失い予備のフィンを付ける為に陸まで苦労して漕いだり、
沈して濡れた身体で強風にさらされ低体温症になりかけたこともあったが冷静に風と地形を見てルートファインディングし絶対に最後まで諦めたくない強い気持ちで漕ぎ続けた。
SUP遠征では大事な装備を濡れから守る為には信用できる丈夫な防水バッグが必要である。
Stream Trailの防水バッグは私の遠征を支えてくれる装備の一つであることを今まで数々の遠征で証明してくれた。